一切の悪を降状させる調状の本尊・西方の大威徳明王
密教に於ける仏像とは、何か? 仏教の信仰対象である仏の姿を表現した像のこと。仏の世界にも大きくわけて4グループに分類されています。細かく紐解き説明し、日々の生活に役立たせたいと思います。

五大明王の一人で南方に置かれているのは、大威徳明王です。
大威徳とは、大きな威力を備えた者という意味です。
名前のとおり、様々な悪を降状させる明王で、阿弥陀如来や文殊菩薩の化身と、されています。
インド名「ヤマーンタカ」は、「ヤマ(死神)を倒すもの」の意味です。
別名は、「マヒシャ・サンヴァラ(力強き水牛の魔神を押しとどめる者)とするところから、水牛にまたがる姿です。


大威徳明王は、閻魔徳迦(えんまとくか)、降間魔尊(ごうままそん)の別名もあります
六本の足を持つ姿から、六足尊などとも呼ばれています。
阿弥陀如来の化身にして、いっさいの悪を調伏(ちょうぶく)させる力を持つといい、降三世明王と同じく調伏の本尊になります。
(調伏とは、調和制伏という意味の仏教用語で、 内には己の心身を 制し修め、外からの敵や悪を教化して、成道に至る障害を取り除くこと。)
他に、大威徳明王は戦勝祈願の独尊の信仰や、明王が水牛に跨っていることから、農耕の神として祀られています。

大威徳明王の真言
オン シュチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ
オン シュチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ

大威徳明王の形
大威徳明王の姿は、六面六臂六足です。
要するに、顔も手も足も六つずつ持っているのです。
この六は、六道を表していると云われます。
六道とは、仏教の輪廻思想において、衆生がその業に従って死後に赴くべき六つの世界。
地獄道、餓鬼道、畜生道、阿修羅道、人間道、天道をいい、六趣ともいいます。
人・天の二道は善趣、他の四道は悪趣とされます。
仏典では修羅(阿修羅)をあげず五道とするのが一般的ですが、日本では六道輪廻の語が定着しています。
天道は、天人が住まう世界である。天人は人間よりも優れた存在とされ、寿命は非常に長く、また苦しみも人間道に比べてほとんどないとされる。また、空を飛ぶことができ享楽のうちに生涯を過ごすといわれる。しかしながら煩悩から解き放たれておらず、仏教に出会うこともないため解脱も出来ない。天人が死を迎えるときは5つの変化が現れる。これを五衰(天人五衰)と称し、体が垢に塗れて悪臭を放ち、脇から汗が出て自分の居場所を好まなくなり、頭の上の花が萎む。
人間道は、人間が住む世界である。四苦八苦に悩まされる苦しみの大きい世界であるが、苦しみが続くばかりではなく楽しみもあるとされます。また、唯一自力で仏教に出会える世界であり、解脱し仏になりうるという救いもあります。
修羅道は、阿修羅の住まう世界である。修羅は終始戦い、争うとされます。苦しみや怒りが絶えないが地獄のような場所ではなく、苦しみは自らに帰結するところが大きい世界であります。
畜生道は、牛馬など畜生の世界である。ほとんど本能ばかりで生きており、使役されなされるがままという点からは自力で仏の教えを得ることの出来ない状態で救いの少ない世界とされます。他から畜養されるもの、すなわち畜生であります。
餓鬼道は、餓鬼の世界である。餓鬼は腹が膨れた姿の鬼で、食べ物を口に入れようとすると火となってしまい餓えと渇きに悩まされます。他人を慮らなかったために餓鬼になった例がある。旧暦7月15日の施餓鬼はこの餓鬼を救うために行われる供養祭であります。
地獄道は、日本仏教で信じられている処に拠れば、死後、人間は三途の川を渡り、7日ごとに閻魔様をはじめとする十王の7回の裁きを受け、最終的に最も罪の重いものは地獄に落とされる。地獄にはその罪の重さによって服役すべき場所が決まっており、焦熱地獄、極寒地獄、賽の河原、阿鼻地獄、叫喚地獄などがあるという。そして服役期間を終えたものは輪廻転生によって、再びこの世界に生まれ変わるとされます。
六観音、六地蔵は、観音菩薩や地蔵菩薩が六道のそれぞれに姿を現し、迷える衆生を済度するという思想を象徴したものです。また、死者を葬るとき冥土での入用として棺内に入れる六文の銭を六道銭という。

大威徳明王の顔は、それぞれに三つの目がついています。
前の二本の腕は、胸の前で中指を立てた印をむすびます。

他の手には、様々な武器を携えています。宝棒、剣、索、戟などを持ちます。

胸元を飾るのは、ドクロがついた瓔珞です。
不気味なドクロの瓔珞を身につける姿は恐ろしげに見えます。
ですが、これは死霊まで打ち負かすという、大威徳明王の力を表しているのです。

大威徳明王は水牛に乗った形で表されています。
水牛は、座っているものが多く見られますが、立っている水牛もいます。

大威徳明王は、戦勝祈願の本尊でも在ります。
ラグビーの日本代表の五郎丸選手が、毎回ペナルティキックの時に実践しているルーティンが注目を浴びて大流行しました。
ペナルティキックの時は、手に印を結びブツブツと。
手の印は、大威徳印に少し似ていますがオリジナルでしょうか?
毎回、高い確率でゴールに成功しているのを見ると、大威徳明王の戦勝の御利益を戴いているような気持ちになります。
